ごもブロ

都内でWEBディレクター/PMをやってるごもくのブログ。読んだ本から買ったモノ、日常のできごとを自由に書きますよ。ちなみにMBA保持者!

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炎上の" その後"を描く「ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち」はSNS時代の処方箋となるか

こんにちは、ごもくです。 

今回はネットリンチや炎上した人々がその後どうなるかを描いた海外の書籍、『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』を紹介します!

まずは概要をさくっと紹介↓

自らの行動やコメントが原因で大炎上し、社会的地位や職を失った人たちを徹底取材。加害者・被害者双方の心理を深掘りし、炎上のメカニズムから、ネットリンチに遭ってもダメージを受けない方法、グーグルの検索結果から個人情報を消す方法までを探る。 

(引用は光文社の書籍紹介ページから)

新書なのに海外書籍の邦訳で、さらに全15章、ページ数は500を超えるという圧倒的なボリュームの本となっています!私はKindleで読んだのですが、500ページの本を持ち歩くのは結構大変そうですね...。

 

本書のテーマは「ネット炎上」ではない?

さて、著者であるジョン・ロンソンさんは、自分の顔写真を使ったツイッターBOTが自分の知らないところで作られ、全く事実無根のことを呟かれ、果てはそのBOTが友人たちやツイッター上のユーザにに本物だと信じられてしまうというところから、本書の企画を思いつきます。

日本だけではなく、欧米や、アジア圏全域でもネット上の炎上が問題となっている例は枚挙にいとまがありませんが、本書で取り上げられている例は企業ではなくどちらかというと個人に焦点が当たっています。

例えば、SNSエイズに関する投稿を冗談半分で行ってしまった女性、ポピュラーサイエンスの世界で有名人でありながらも誤った引用をネット上で指摘されてしまった男性など、ネットやSNSで広く拡散されて糾弾されてしまった一般の人たちです。ここ数日ネットで拡散されている航空機からの強制退去といった、企業の対応が問われる事例に関しては取り上げられていません(炎上の当事者たちは職場を解雇されているので、企業の対応が関係ないとは言えませんが...。) 

ネット上にしろそうでないにしろ「炎上」してしまった人たちの末路は一部を除いて悲惨なものだらけです。SNSの利用をやめてしまうのであればまだ優しい方で、炎上の翌日に職場を解雇されて再就職もできなくなり、自身の謝罪会見をリアルタイムのツイート画面を見ながら行ったり、人間不信によって1年以上も外に出ることができなくなってしまいます 。

 ただ、実は「ネットでなぜ炎上するのか?」ということは、本書の主題ではないんです。原題は「SO YOU'VE BEEN PUBLICLY SHAMED」となっており、意訳すれば「あなたは公開羞恥系に晒された」ということになります。もちろん本書の導入のきっかけはSNSではあるのですが、取り上げられている事例は前述の人たちに加えて、国際自動車連盟会長のSMスキャンダルといった内容もあり、どちらかというと本書のテーマは「自分自身の恥ずかしい行いを(ネットも含めて)多くの人たちに知られた時に人はどうなるのか」ということに尽きます。

 

ネットで生まれる恥の文化

著者はツイッターBOT騒ぎを切り口にしてはいますが、大衆に見せしめをする羞恥刑の歴史を遡ったり、自身の恥ずかしい行為を気にしなければ炎上被害が拡大しないのではないかという仮説を元に、ポルノの撮影現場にも潜入しています。本書を読み進めていくと、決してSNSでの炎上にのみ焦点を当てている本ではなく、捉える範囲はもっと広いものであることがわかるでしょう。

では、「恥」について書かれてばかりで、本書を読んでもネット炎上に関する知見は得られないのか?というと、そうでもありません。

ネットやネット炎上について得られる知見は3つあります。 

 

本書から得られる知見・教訓

その1.「群集心理」論に科学的な根拠はない

皆さんも「群集心理」や「集団心理」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。提唱したのは19世紀フランスの心理学者ギュスターヴ・ル・ボンという人物です。このル・ボンという人物の経歴について詳細なことは判明していないのですが、かなり偏見(女性蔑視や人種差別的な思想)があったと書かれています。

そうした人物の書いた書籍が当時の学界に受け入れられるわけではなく、ル・ボンはフランス国外にて「群集心理」を著します。これは時の権力者たちにこぞって受け入れられ、ル・ボンは一定の地位を得ます。しかしル・ボンが国外で書いた本や論文は根拠薄弱であったとも記載があり「群集心理」論の妥当性の再考を促す内容となっています。

その2.ネット炎上が起こるメカニズム「フィードバックループ

では、どういった概念・理論であればネット炎上について分析できるのか。本書の終盤で、米国のある自治体に取り付けられた信号機の例が取り上げられています。あるスクールゾーンでは速度制限が守られず子供達の安全に苦慮していました。それを解決したのが、制限速度の下に取り付けられた「あなたの現在の時速」のメーターです。もちろんドライバーはダッシュボードで自分の速度を確認することができます。この「フィードバックループ」は信号機から「あなたの現在の速度」としてフィードバックをもらえたことによって、その人自身の行動に影響を与えることをさします。

著者はドキュメンタリー監督のアダム・カーティの言葉を引用して「フィードバックループのせいで、SNSは巨大な共鳴室になっているのではないか」と述べています。同じような発言が繰り返し行われることで、行動が何倍にも過激になってしまうのです。

そう言えばSNSに投稿する際に、自分の投稿がどのくらい「いいね」がつくのか、どれだけの人がリツイートしてくれるのかを期待して投稿することがありますが、これも他者からの「フィードバック」を先行して取得している、フィードバックループの一つの事例と言えるのかもしれません。 

その3.ネット炎上から復帰するための、たった一つのやり方

さて、ネット炎上してしまった後、その状況から復帰するにはどうしたら良いのでしょうか。これは現状では打つ手なし、という他ありません。本書ではGoogleの「忘れられる権利」について書かれていますが、その権利を行使した際にガーディアンなどのニュースサイトの記事も検索対象外にされてしまうなど、企業間の思惑が見え隠れしてしまう結果となってしまうためです。

もう一つ、取り上げられているのが、自身の炎上記事のページランクを下げる業者の存在です。方法について詳細はあまり書かれていませんが、どうやら同姓同名の人物に関する記事を大量に量産することで意図的にページランクを操作するというやり方のようです。

また具体的に書かれてはいませんが、こうした業者については膨大な謝礼が必要であるとも記述があり、個人ではとてもまかないきれないとのことです。

結局、個人がインターネット上の「忘れられる権利」を行使するにはプラットフォーマーであるグーグルやYahooといった企業がそれに応じるかどうかしかないのです。 

 

ちなみにこの本、各所で話題になっているようで、帯は津田大介さんが書かれていて、日経新聞では荻上チキさんが、読売新聞で宮部みゆきさんが書評を書かれています。 

 500ページ超という大著ながら、今求められているテーマであることと新書である読みやすさから話題になっているのかもしれませんね。

公開羞恥刑について、群集心理に関する研究 についてや、何よりも炎上の海外事例について詳しく知れるこの一冊、とてもおすすめです。